ライフイベント×お金|人生でかかる費用を読み解く

親の介護が突然始まったときに必要な初期費用と支援制度一覧

夜中に親から電話がかかってきて「体が動かない」と言われたら、あなたはどう対応しますか。救急車を呼ぶ、病院に付き添う、入院手続きをする。目の前のことに追われているうちに、気づけば財布の中身が心もとなくなっている、そんな経験をする家族は少なくありません。

介護の開始は予告なくやってきます。準備ができていない状態で始まるからこそ、どんな費用が発生するのか、どこに助けを求められるのかを知っておくことが、家族の生活を守ることにつながります。

介護スタート時に財布から出ていくお金

親が倒れて病院に運ばれた瞬間から、お金の問題は始まっています。病院の会計、薬代、タクシー代、コンビニで買う日用品。小さな出費が積み重なり、気がつくと数万円が消えています。介護が本格化する前の段階で、すでに家計への影響が始まっているのです。

病院関連で最初に必要になる支払い

救急搬送された親が入院することになれば、病院の窓口で現金が必要になります。検査費用、入院保証金、数日分の食事代などを合わせると、初日だけで数万円の支払いを求められることも珍しくありません。

クレジットカードが使える病院なら助かりますが、現金のみという医療機関もまだ存在します。親の財布から支払うにしても、本人が意識不明なら家族が立て替えることになり、後日精算という形になるでしょう。

病院によっては入院時に預かり金として5万円前後を求められます。これは退院時に精算されるものですが、一時的に準備する必要があります。親の通帳やキャッシュカードの場所を知らなければ、子世代が工面することになります。

介護保険を使い始めるまでの空白期間

介護保険サービスを利用するには市区町村への申請が必要で、認定結果が出るまで待つ時間が発生します。その間も生活は続くため、民間のヘルパーを自費で頼んだり、家族が仕事を休んで対応したりすることになります。

発生するタイミング 必要な手続き かかる日数
退院が決まった時点 要介護認定の申請 申請から結果まで約1ヶ月
認定結果待ちの期間 暫定プランでのサービス利用検討 自己負担が発生
認定後 ケアプラン作成とサービス開始 さらに1~2週間

申請から実際にサービスが使えるようになるまで、合計で1ヶ月半ほどかかることもあります。この空白期間をどう乗り切るかが、介護開始時の大きな課題です。

自宅に戻るための環境整備費用

病院から退院して自宅に戻る場合、今までの住環境では生活が難しくなっていることがあります。玄関の段差でつまずく、お風呂で転ぶ、トイレまでの廊下で足がもつれる。こうしたリスクを減らすための工事が必要です。

  • 玄関から居間までの動線に手すりを設置
  • 浴室の床を滑りにくい素材に変更
  • トイレを和式から洋式に交換
  • 車椅子が通れるよう廊下の段差を解消
  • 寝室に介護用ベッドを配置するためのスペース確保

こうした工事には補助制度がありますが、申請してから支給されるまでタイムラグがあります。先に工事代金を支払い、後から一部が戻ってくる仕組みのため、一時的な資金準備が必要です。

自己負担を減らすために使える公的な仕組み

日本の社会保障制度には、介護にかかる費用を軽減する仕組みが複数組み込まれています。ただし自動的に適用されるものばかりではなく、申請しなければ使えない制度も多いため、知っているかどうかで負担額が変わります。

介護保険サービスの自己負担割合

介護保険を使えば、サービス費用の大部分を保険でまかなえます。利用者が支払うのは全体の1割から3割で、残りは保険から事業者に直接支払われます。自己負担の割合は所得によって決まります。

所得区分 負担割合 該当する人の例
本人の所得が少ない 1割 年金のみで暮らしている高齢者
本人の所得が一定以上 2割 年金以外に不動産収入がある人など
本人の所得がかなり高い 3割 現役時代の貯蓄や運用益が多い人

要介護度によって月に使えるサービスの上限額が決まっており、それを超えた分は全額自己負担になります。限度額内でやりくりするには、ケアマネージャーと相談しながら本当に必要なサービスを選ぶことが大切です。

月々の支払い上限を設定する制度

介護サービスを使いすぎて月の支払いが膨らんでも、一定額を超えた分は後から戻ってきます。これが高額介護サービス費という制度です。

所得に応じて月の上限額が決まっており、例えば一般的な所得の世帯なら月4万4千円程度が上限です。それ以上支払った場合、超過分が指定口座に振り込まれます。

  • 最初の申請時:市区町村から申請書が届いたら記入して提出
  • 2回目以降:自動的に計算されて振り込まれる
  • 振込時期:サービス利用月の2~3ヶ月後
  • 領収書:念のため保管しておくと安心

この制度があることを知らずに、毎月高額な支払いを続けている家庭もあります。市区町村の介護保険課に問い合わせれば、過去にさかのぼって申請できる場合もあります。

住まいを介護向けに変える工事への補助

自宅をバリアフリー化する工事には、介護保険から補助が出ます。工事費用の9割(所得によっては8割または7割)が支給され、上限は20万円までです。

ただし工事を始める前に必ず市区町村に申請し、承認を得る必要があります。先に工事をしてしまうと補助が受けられなくなるため、順序を間違えないよう注意が必要です。

手順 やること ポイント
1. 計画 ケアマネージャーに相談 どこを直すべきか専門家の意見を聞く
2. 見積もり リフォーム業者から見積書をもらう 複数社から取ると比較できる
3. 申請 市区町村に事前申請 承認が出るまで工事はしない
4. 工事 承認後に着工 工事前後の写真を撮影しておく
5. 支給申請 完了報告書と領収書を提出 補助金が振り込まれる

市区町村が独自に用意している支援

国の制度だけでなく、地域ごとに独自の支援策を設けている自治体も多くあります。内容は地域差が大きいため、お住まいの市区町村のウェブサイトで確認するか、窓口で直接尋ねるのが確実です。

  • 紙おむつの購入費助成:毎月一定額まで無料または割引
  • 配食サービスの利用料補助:栄養バランスの取れた食事を自宅に届けてもらえる
  • 緊急時の通報装置貸与:ボタンを押すだけで助けを呼べる機器を無料で借りられる
  • タクシー利用券の配布:通院や買い物の際の交通費を補助
  • 見守りサービス:一人暮らしの高齢者宅を定期的に訪問

収入が少ない世帯向けのさらなる軽減策

年金だけで暮らしている、貯蓄がほとんどない、こうした経済的に厳しい状況にある世帯には、通常の制度に加えてさらに手厚い支援が用意されています。

施設利用時の食費と部屋代を安くする制度

ショートステイや介護施設に入所する際、サービス費用以外に食事代や居住費がかかります。これらは介護保険の対象外で通常は全額自己負担ですが、所得と資産が一定以下なら軽減措置が受けられます。

市区町村に申請すると負担限度額認定証が発行され、これを施設に提示することで軽減後の金額が適用されます。食事代が1食数百円、部屋代が月数万円安くなるケースもあります。

お金を借りられる公的な貸付制度

介護サービスを利用したいが手持ち資金がない、そんなときに利用できるのが生活福祉資金貸付制度です。社会福祉協議会が窓口となり、無利子または低金利でお金を貸してくれます。

  • 対象となる世帯:低所得世帯、高齢者世帯、障害者世帯など
  • 借りられる金額:目的に応じて異なるが数十万円まで可能
  • 返済方法:据置期間の後、月々少しずつ返済
  • 連帯保証人:原則必要だが、いない場合でも相談可能

返済が困難になった場合の相談にも応じてもらえるため、一人で抱え込まず早めに相談することが大切です。

困ったときに駆け込める場所

介護の悩みを相談できる窓口は、思っているよりも身近にあります。専門知識を持った人たちが、無料で相談に乗ってくれる場所を知っておくことが、介護を乗り切る第一歩です。

地域の介護総合窓口の使い方

地域包括支援センターという名前を聞いたことがあるでしょうか。各市区町村が設置している高齢者のための総合相談窓口で、介護保険の申請から日常生活の困りごとまで、幅広く相談に乗ってくれます。

保健師、社会福祉士、ケアマネージャーといった専門職がチームで対応しており、相談内容に応じて適切な支援につなげてくれます。相談は無料で、電話でも訪問でも受け付けています。

相談できること 具体例
介護保険の手続き 申請方法、必要書類、認定までの流れ
サービスの選び方 デイサービスと訪問介護どちらがいいか
お金の心配 費用の目安、利用できる制度の案内
家族の負担 介護疲れ、仕事との両立、兄弟間の役割分担
権利を守る相談 詐欺被害、虐待の疑い、成年後見制度

初めて相談するときの準備

地域包括支援センターに相談する際、手元に以下の情報があるとスムーズです。すべて揃っていなくても構いませんし、わからないことがあれば一緒に整理してもらえます。

  • 親の健康状態:持病、服薬内容、最近の体調変化
  • 生活の様子:食事は作れるか、お風呂は一人で入れるか、買い物に行けるか
  • 住まいの状況:一戸建てかマンションか、段差や階段の有無
  • 家族構成:同居しているか、近くに住んでいるか、日中の様子を見られるか
  • 経済状況:年金額、貯蓄の有無、医療保険への加入状況

「何を相談したらいいかわからない」「漠然とした不安しかない」という状態でも大丈夫です。話しているうちに問題が整理され、次にやるべきことが見えてきます。

初期費用の負担を最小限にするコツ

制度を知っていても、使い方を間違えると損をします。介護が始まってから後悔しないために、押さえておきたいポイントをまとめます。

  • 領収書は全て保管:医療費控除や各種申請に必要になる可能性があります
  • 工事は必ず申請してから:事後申請は基本的に認められません
  • 兄弟姉妹で役割分担:お金を出す人、時間を使う人、情報を集める人と分けると負担が偏りません
  • 親の財産状況を早めに確認:通帳や印鑑の場所、加入している保険を把握しておきます
  • ケアマネージャーは相性も大切:合わないと感じたら変更できます

介護は短期間で終わるものではありません。最初の数ヶ月で疲弊してしまわないよう、使える制度は全て使い、頼れる人には頼ることが、長く続けるための秘訣です。

わからないことがあれば、お住まいの市区町村の介護保険課や厚生労働省の地域包括ケアシステムのページで情報を確認できます。一人で悩まず、早めに専門家に相談することが、親にとっても自分にとっても最善の選択になります。