病気やケガで病院を受診したものの、想定外の出費に戸惑ってしまうことはありませんか。医療費の支払いが難しい状況になると、その後どのような展開になるのか不安に感じる方も多いでしょう。
医療費を払えないまま放置するとどうなる?
病院での治療費や入院費を支払えないままにしておくと、段階的にさまざまな対応が行われます。医療機関は患者さんの経済状況に配慮しつつも、未払い金の回収に向けた手続きを進めていくためです。
督促状が自宅に届く
支払期日を過ぎると、まず病院から電話や郵便で支払いの確認連絡が入ります。最初は「医療費のお知らせ」といった穏やかな表現ですが、返済がないまま時間が経過すると、督促状の内容も次第に厳しくなっていきます。
具体的な金額や支払期日が明記され、「法的措置も検討する」といった文言が加わることもあるでしょう。督促状は一度きりではなく、複数回にわたって送付されるケースが一般的です。
保証人への請求が行われる
入院時に連帯保証人を立てている場合、本人への督促で支払いが確認できないと、保証人に対して請求が行われます。保証人は法律上、本人と同じ支払義務を負っているため、本人が支払えない状況では保証人が代わりに支払う責任が生じるのです。
家族や親族に迷惑をかけたくないと考えるなら、早めに病院へ相談することが重要になります。
弁護士からの通知や法的措置
督促を繰り返しても支払いがない場合、病院は弁護士に債権回収を依頼することがあります。
弁護士名義での督促状が届いたり、最終的には裁判手続きに進む可能性も出てきます。少額訴訟や支払督促といった法的手段を通じて、裁判所から支払命令が出されることもあるでしょう。こうなると、給与の差し押さえなど強制執行に至るリスクも高まります。
時効の成立について
医療費にも消滅時効が存在します。以前は3年とされていましたが、民法改正により現在は原則5年となっています。
ただし、時効の成立を期待して支払いを逃れようとするのは現実的ではありません。病院側も時効を中断させるための手続き(債務承認や催告など)を行うため、時効成立前に法的措置が取られることがほとんどです。
次回受診時の対応
医療費の未払いがあると、次回の受診時に影響が出ることもあります。医師には「応招義務」があり、正当な理由なく診療を拒むことはできません。しかし厚生労働省の見解によると、「支払能力があるにもかかわらず悪意を持ってあえて支払わない場合」には診療拒否が正当化されるとしています。特段の理由なく保険診療の自己負担分の未払いが重なっている場合は、悪意のある未払いと推定される可能性もあるため注意が必要です。
- 以前の未払いのみを理由に診療を拒否することは原則として認められていない
- ただし支払能力があるのに故意に支払わないケースでは診療拒否が認められる場合がある
- 未払いが重なると悪意があると判断されるリスクが高まる
こうした事態を避けるためにも、支払いが困難な場合は早期に医療機関へ相談する姿勢が大切です。
支払いが厳しい時に使える対処法
医療費の支払いが難しい状況でも、諦める必要はありません。日本には医療費負担を軽減するための公的制度がいくつも用意されており、病院側も患者さんの事情に応じた柔軟な対応を取ってくれることが多いのです。
病院の相談窓口を利用する
多くの病院には「患者総合サポートセンター」や「相談支援室」といった相談窓口が設置されており、医療ソーシャルワーカー(MSW)などの専門スタッフが配置されています。
医療費の支払いに不安がある場合、請求書が届いてから慌てるよりも、入院前や治療開始前の段階で相談しておく方が印象も良く、具体的な対応策を一緒に考えてもらえます。支払方法の相談はもちろん、利用できる公的制度の案内や手続きのサポートも受けられるでしょう。
分割払いの相談
一括での支払いが困難な場合、病院に分割払いを相談することができます。多くの医療機関では、患者さんの経済状況に応じて柔軟に対応してくれるケースがあります。
分割払いの場合、ローンではないため利息がかからないことが一般的です。月々の支払額は収入に応じて決定されることが多く、年金受給者であれば年金支給日に合わせた支払スケジュールを組んでもらえることもあります。
ただし、分割払いを利用する際には連帯保証人を求められる場合もあるため、事前に確認しておきましょう。
高額療養費制度の活用
1ヵ月の医療費が一定額を超えた場合、自己負担額を軽減できる制度です。
年齢や所得に応じて上限額が設定されており、超えた分は後から払い戻されます。たとえば年収約370万~770万円の方が100万円の医療費(窓口負担30万円)を支払った場合、高額療養費制度を利用すると実質的な自己負担は約87,000円程度になります。
この制度は還付型のため、いったん窓口で支払う必要がありますが、事前に「限度額適用認定証」を取得しておけば、窓口での支払いを上限額内に抑えることも可能です。加入している公的医療保険に申請することで利用できます。
| 制度名 | 概要 | 対象者 |
|---|---|---|
| 高額療養費制度 | 1ヵ月の医療費が上限額を超えた分を払い戻し | 公的医療保険加入者全員 |
| 高額療養費貸付制度 | 医療費の8~9割を無利子で借りられる | 高額療養費対象者で一時的な資金が必要な方 |
| 限度額適用認定証 | 窓口での支払いを上限額内に抑える | 事前申請が可能な方 |
その他の公的支援制度
医療費負担を軽減する制度は高額療養費だけではありません。傷病手当金は、病気やケガで4日以上働けなくなった場合に、給与の約3分の2を最長1年6ヵ月間受け取れる制度です。
会社員や公務員が対象で、国民健康保険加入者は利用できない点に注意が必要です。
精神疾患で通院治療を受けている方には、自立支援医療制度があります。通常3割負担のところ、この制度を利用すれば自己負担が1割に軽減され、世帯の所得に応じた上限額も設定されています。
また、医療費控除は年間の医療費が10万円を超えた場合に所得税や住民税の負担を軽減できる制度で、確定申告によって利用できます。
経済的に困窮している場合は、生活保護制度も選択肢の一つです。生活保護の医療扶助を受けられる治療であれば、医療費は直接病院に支払われるため、本人の窓口負担はありません。働いていても収入が生活保護基準以下であれば対象となる可能性があります。
- 傷病手当金:給与の約3分の2を最長1年6ヵ月間受給できる(会社員・公務員対象)
- 自立支援医療:精神疾患の通院治療費が1割負担に軽減される
- 医療費控除:年間10万円超の医療費で所得税・住民税を軽減
- 生活保護:経済的困窮者の医療費を全額補助(医療扶助)
- 無料低額診療事業:生活困窮者が無料または低額で診療を受けられる制度
これらの制度は、それぞれ利用条件や申請方法が異なります。自分の状況に合った制度を見つけるためにも、病院の相談窓口や加入している医療保険の窓口に問い合わせてみることをおすすめします。
未払いを予防するために知っておきたいこと
医療費の未払いトラブルを避けるには、事前の備えと早めの相談が何よりも大切です。予期せぬ入院や治療が必要になった時に慌てないよう、日頃から準備しておける対策があります。
医療費の概算を事前に確認する
入院や手術が決まったら、できるだけ早い段階で病院に医療費の概算を尋ねてみましょう。治療内容によって費用は大きく変わりますが、おおよその金額を把握しておくことで、支払方法を検討する時間が生まれます。
保険適用外の費用(差額ベッド代など)についても確認し、総額をイメージしておくことが重要です。
限度額適用認定証を事前取得する
高額な医療費が見込まれる場合、入院前に限度額適用認定証を取得しておくと安心です。この認定証があれば、窓口での支払いが自己負担上限額までに抑えられるため、一時的に大金を用意する必要がなくなります。
加入している医療保険に申請すれば発行してもらえるので、入院や手術が決まった段階で早めに手続きしておきましょう。
医療費専用のローンやサービス
銀行や信販会社が提供する医療ローンを利用する方法もあります。病院と提携しているローン会社を利用するのが一般的で、保険適用の治療だけでなく保険適用外の治療にも対応しています。
医療費に特化したクレジットサービスでは、分割払いや支払日の設定が柔軟にできるものもあり、給料日や年金支給日に合わせた返済計画を立てられます。ただし利息が発生するため、返済計画をしっかり立ててから利用することが大切です。
| 対策 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 医療費の事前確認 | 概算を把握して支払計画を立てられる | 治療内容の変更で金額が変わる可能性がある |
| 限度額適用認定証 | 窓口支払いが上限額内に収まる | 事前申請が必要 |
| 医療ローン | 高額医療費を分割で支払える | 利息が発生する/審査がある |
| クレジットカード払い | 支払期限を翌月まで延ばせる | 分割払いやリボ払いは手数料がかかる |
早めの相談が最善の策
医療費の支払いに不安を感じたら、とにかく早めに相談することが何よりも重要です。請求書が届いてから「払えない」と伝えるよりも、入院前や治療開始前の段階で病院の相談窓口に相談しておく方が、より多くの選択肢を検討できます。
医療機関側も患者さんの経済状況を理解した上で、適切な支援制度の案内や柔軟な支払方法を提案してくれるでしょう。一人で抱え込まず、専門スタッフの力を借りることで、安心して治療に専念できる環境が整うことでしょう。